2025.2.28
普段、当たり前のように食べ物を食べていますが、この「食べる」機能は永遠に続くとは限りません。年齢を重ねると、気づかないうちに筋力が低下して口から好きなものを食べることが難しくなることがあります。子どもの場合、口の機能の発達が不十分な状態が続くと様々な不調やトラブルのもとになることも。
食べる機能の低下や障がいの重症化は、生命維持に関わるだけでなく、その楽しみも奪います。これは、「QOL=生活の質」の低下にも繫がります。口腔の機能低下が進行し食べる機能が障がいされると、栄養や運動機能、社会との関わりや心理的な部分にまで影響し、人生をも変えてしまう可能性があるということです。
「食べる」機能を維持するためには、体の筋肉を落とさないようトレーニングなどをするのと同じように、関わる部分を定期的に刺激することが大切です!

今回は「食べる機能の低下予防」、つまり「オーラルフレイル予防」に役立つエクササイズをご紹介します。
1.食べることに関わる体の部分は?
まずは体の中の「食べる」ことに関わっている部分を確認しましょう。
私たちが食事を食べたり飲み物を飲んだりするときに、体のどの部分を使って食べていると思いますか?
口や喉のあたりと考える方もいると思いますが、実は足から頭まで全身が食べることに関わっています。
口の体操や口腔ケアを行うことも大切ですが、全身の状態にまで意識を向けることで、さらに食べることに関わる器官がスムーズに連係し合い効率的に働きます。
少し詳しく食べる機能を確認しましょう。
【食べる前】
まず食べる前には、食べ物を認識することが重要です。
寝ぼけた状態で急に飲み物を口に入れられたら、うまく飲み込めずむせてしまいますよね。
しっかりと覚醒した状態で、食べ物があることを認識し、食べると準備をする。
視覚や嗅覚、聴覚を使いながら脳を活動させて食事を摂る態勢を整えます。
【口に入れて飲み込む】
何を食べるのかどんな味なのか、どこに食べ物があるのか、目や鼻、記憶もたどりながら脳内で食べ物を認識し、手を使って口へと運びます。
そして、適した大きさに口を開け、唇を使って食べ物を取り込み、歯や舌・頬を巧みに使って噛み砕きながら飲み込めるようにまとめます。細かくすると同時に唾液と混ぜ、飲み込める形状になったら、食べ物を口の中の奥の方へと移動させ「ゴクン」と飲み込みます。食べ物は喉(咽頭)・食道・胃・腸へと送りこまれます。

実は、口周辺だけではなく、食べる際には「姿勢」もとても大切です。
上を向いたまま水を飲んでみてください。
飲み込みにくかったりむせそうになったりするはずです。
食事をするときの姿勢が悪いと、食べ物を口に運ぶときにこぼしてしまうことがあります。また、首や肩の筋肉が必要以上に緊張してスムーズに動かず、咀嚼や飲み込みがうまくできなくなることもあります。
年齢問わず見られるのが猫背(円背)。猫背の状態では呼吸が浅くなり、顎が自然と上を向いてしまうため、気管に食べ物が入ってしまうリスクが高くなってしまいます。また、口のまわりの筋肉や顎(あご)を動かしにくくなるため、咀嚼にも影響します。
頭、顔、首、体の筋肉は互いに影響し合っています。
どこか一部分だけではなく、全身の柔軟性、可動域(動く範囲)を保てるよう、色々な部分のトレーニングをしましょう。
2.食べる機能の低下を予防する運動
「食べる」という機能は、口の周りだけではなく全身の部位が関わりあっています。口を中心に体全体の運動も取り入れましょう!
下記に自宅で簡単にできる、食べる機能の低下予防につながる運動をご紹介します。
痛みがあったりしびれを感じたり、違和感がある場合には無理をせず、できる範囲で行いましょう。
●全身・体幹の運動・ストレッチ
普段の生活の中で目的地まで少し遠回りして歩く、エレベーターではなく階段を使う、積極的に体を動かしたり、ストレッチをしましょう。特に胸や肩や首回りのストレッチは十分に。全身の筋力を落とさず、また体の柔軟性を保つように心がけましょう。背中や肩の筋肉は頭・顔・喉の筋肉に繋がっています。筋肉の動きを良くしておくことで、繋がっている部分の筋肉が十分にスムーズに動くようになります。
肩を上げ下げしたり、首を前後左右に倒したりするのも良いですね。

●口腔器官の運動
顎:大きく開けたりしっかり閉じたりする。
口唇:突き出したり横に引いたり、すぼめたまま左右に動かす。

舌:舌をできるだけ出して、唇を円を描くように舐める。なるべくゆっくりと、右回り・左回りに2〜3回ずつ行いましょう。また、舌を前に突き出す・引く、口唇の上下左右に付ける、頬を内側から舌で押すなどの運動もよいでしょう。
頬:口をしっかりと閉じ頬を大きく膨らませたり、頬がへこむように吸い込んだりを数回繰り返す。

●呼吸を意識的にする
大きく吸って長く吐いたり、大きく吸って勢いよく吐いたりしてみましょう。お腹の動きや胸の広がりを意識しながら行いましょう。

●発声する
・できるだけ長く「あー」と発声し続けます。
普段と同じ声の大きさ・高さで発声し、時間を計って少しずつ「あー」と発声する時間を伸ばしてみましょう。また、歌うことも良い運動になりますのでおすすめです。大きな声を出せるのであれば、大きな声を出してみたり、高低音を繰り返し発声するのも良い運動です。
・大きく口を動かしてはっきりと「パタカラ」を発音してみましょう。「パパパパ…」「タタタ‥‥」「カカカカ‥‥」など一音ずつを早く繰り返したりも力強く発音してみたり、いろいろなバリエーションで発音してみるのも良いです。
●咳払い
軽い咳払いを2〜3回、まだ続けられそうなら10回程度を目安に行いましょう。
また、喉に違和感がなければ、数回強く咳払いをしてみましょう。
●頭を挙げる
仰向けの姿勢になり、そこから頭を持ち上げておへそをのぞいてみましょう。そして、ゆっくりと頭をおろします。数回繰り返します。

その他にも…
普段の食事で少し噛み応えのあるものを食べたり、歯磨きをしながら、歯ブラシで頬を内側から外に向かって筋肉を伸ばすように押したりするのも刺激になります。
トレーニングをする際、痛みが出たときには無理をせず、できる範囲で行いましょう。
特にお口周辺のトレーニングは、何かをしながらできる内容です。お風呂に入りながら、家事をしながら、散歩をしながら、気が付いた時に動かしてみましょう。

食べる機能の低下は、食べるもののバランスが崩れると言われています。やわらかくて飲み込みやすいごはんや、パンなどの炭水化物を好んで食べるようになるためで、これにより栄養が偏り、さらなる筋力の低下を招きます。徐々に体が弱って、さらに食べる機能が低下、食べるものがさらに偏る……といったように悪循環に陥っていくのです。
食べるトレーニングは、脳の活性化や顔のしわやたるみの解消にもつながります。
自由に動けて自由に食べられることは生活の質の向上、健康寿命にも影響します。口やのど、顔などの直接食べる器官だけでなく体の筋肉も衰えないよう、しっかりと動かしましょう!
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【関連コラム】
●オーラルフレイルの症状についてはこちらのコラムでご紹介しています
●咀嚼チェックせんべいを使った咀嚼チェックについてはこちら
「誰でも簡単!お口の健康チェック ~噛む力足りていますか?~」
●食べる機能についての詳しく知りたい方はこちら
【参考】
日本歯科医師会 オーラルフレイル対策のための口腔体操
https://www.jda.or.jp/oral_frail/gymnastics/(2025年2月28日利用)