2024.9.30
近年、たくさんの女性アスリートが国際大会でも目覚ましい活躍をしています。その活躍の裏には女性特有の悩みがあることも。女性アスリートのみならず、スポーツをしない女性、そして関わる全ての人に知って欲しい、女性アスリートの健康課題について説明します。
女性アスリートの「三主徴」とは?
女性アスリートが陥りやすい3つの健康課題は「女性アスリートの三主徴」と呼ばれています。利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability: LEA)、視床下部性無月経(運動性無月経)、骨粗鬆症の3つの症状が挙げられます。これらは相互に関係しあい、利用可能エネルギー不足を原因として視床下部性無月経、骨粗鬆症を引き起こし、さらに視床下部性無月経が骨粗鬆症を引き起こすと言われています。
これらの症状は、コンディションに大きな影響を与えるだけではなく、選手生命に影響を及ぼしたり、健康問題につながったりするリスクがあるため、選手自身だけではなく、関わる全ての人が理解しておく必要があります。
利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability: LEA)
利用可能エネルギーとは、摂取したエネルギー量から、運動に必要なエネルギー量を引いたもので、身体機能を維持するために利用できるエネルギー量のことです。つまり、利用可能エネルギー不足とは、身体機能を維持するエネルギーが不足している状態のこと。運動によってエネルギー消費量が高まっているにも関わらず、十分な食事量が摂取できていない場合は、使用可能なエネルギーが不足してしまいます。この状態が続くと、パフォーマンスが低下したり、健康問題に繋がるリスクがありますが、これは女性に限ったことではなく、男性にも起こりうる問題です。
視床下部性無月経(運動性無月経)
利用可能エネルギー不足の状態が続くと、脳が子どもを産む状況ではないと判断し、月経を止めてしまいます。「生理がない方が楽だからいい」など、楽観的に考えては危険です。競技を引退しても正常な月経に戻る保証はありません。無月経の状態は、将来の健康のためにも早急に改善する必要があります。
視床下部性無月経は、3か月以上月経が止まること、18歳以上で初潮がまできていない状態と定義されています。3か月月経がない場合、(定義より少しはやめの)15歳になっても初潮がきていない場合は、専門機関に相談しましょう。そのためには月経周期の記録を付けるなど、自分の現状を把握しておくことも大切です。
基礎体温をチェックしよう
基礎体温とは、起床時、目覚めた直後の体温のことです。基礎体温から自分の卵巣からきちんと排卵されているか予測することができます。排卵が起こると、プロゲステロンというホルモンが分泌され、体温が上昇します。そのため、きちんと排卵している女性では、下図のように体温の低温期と高温期がみられます。排卵のない女性では低体温のみで、基礎体温の変動がみられません。
基礎体温を記録することで、排卵の時期や月経の時期を予測することができます。また利用可能エネルギー不足になると、高温期が10日未満と短くなります。利用可能エネルギー不足が改善されないと、無排卵になってしまうため、高温期が短くなってきた場合は、利用可能エネルギー不足の兆候と捉え、食事量や運動量の調整が必要になります。
基礎体温の測り方
朝起きたら、布団から出る前に測ります。舌の下に体温計をいれ、口にくわえて測定します。基礎体温を測るためには、小数点第2位まで測定できる婦人体温計がおすすめです。ドラッグストアなどで手軽に購入できます。
基礎体温の記録は、スマートフォンのアプリで月経周期と合わせて簡単に記録できるものもあるので、活用してみるのもよいでしょう
骨粗鬆症
骨粗鬆症とは、骨量(骨密度)が減少し、骨がもろくなり骨折しやすくなった状態のことです。視床下部性無月経の女性アスリートでは、正常月経の女性アスリートに比べて骨密度が低いことが多く報告されています。無月経になるとエストロゲンの分泌が低下し、骨密度や骨の強度に影響を及ぼすとの報告があり、疲労骨折のリスクが高まると言われています。
また、骨量の増量には期間があり、思春期がピーク。発育発達期後の20歳代でピークを迎え、その後は骨量を増やすことはできません。つまり、成長期にあたる思春期にどれだけ骨量を増量させておくかが、将来の骨粗鬆症の予防につながります。「骨量の増加する時期に無月経になる」=「ホルモンの分泌がない」=「骨量が増えない」ということになるので、将来の健康を考えてもしっかりと対策していく必要があります。
利用可能エネルギー不足を起こさないためには
視床下部性無月経、骨粗鬆症を予防するためには、入口である、利用可能エネルギー不足の状態にならないことが重要です。競技レベルや練習量、年齢に関わらず、必要なエネルギー量が摂取できていなければ、誰にでも起こりうることだと認識しましょう。利用可能エネルギー不足の人では、特に炭水化物の摂取量が少ない傾向があります。ごはん、パン、麺などの炭水化物を中心に、「主食、主菜、副菜、汁物」を揃えてバランスのよい食事をこころがけましょう。3食以外に補食を取り入れることで、摂取エネルギーを増やすことができます。補食では、おにぎり、パン、カステラ、だんご、大福、バナナ、100%オレンジジュースなどが勧められます。
パフォーマンスアップや身体づくりのためには、「運動」、「食事・栄養」、「睡眠・休養」の3つの要素をバランスよく取り入れることが大切です。日々の自分の身体の変化に向き合い、少しでも違和感があれば、すぐに指導者や専門機関に相談しましょう。そのためには、相談のしやすい環境作りも大切です。アスリートを支える指導者、スタッフも女性アスリートの健康課題について理解を深めていきましょう。
▼関連コラム
参考
●独立行政法人 日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター 国立スポーツ科学センター 女性アスリートのための栄養・食事ガイドブック
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/column/woman/femaleathlete_guidebook.pdf
(2024年9月30日利用)
●独立行政法人 日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター(JISS)2013年 女性アスリートのためのコンディショニングブック
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/info/pdf/josei_athlete_conditioning_book.pdf
(2024年9月30日利用)
●鈴木志保子,「理論と実践 スポーツ栄養学」,日本文芸社,2018
●寺田新,「2020年版スポーツ栄養学最新理論」,(株)杏林舎,2020