2024.3.17
一歩先を行く沖縄
ゴーヤに島豆腐、ウコンやシークワーサーなどヘルシーな食べ物を食べて長寿!という印象があった沖縄県。ところが、近年では「沖縄県50代男性の2人に1人が肥満」という現状をご存知でしょうか?
昔ながらの沖縄の食事はその風土ならではの島野菜や果物、そこに大豆製品と適度な魚や肉が加わったものでした。しかし、戦後のアメリカ統治下で食の欧米化が急速に進み、食環境に大きな影響を与えたのです。
食環境と味覚にはどんな関係があるのでしょうか?
味覚とは?
味覚とはヒトの五感のひとつで、物の味を認知する感覚です。この感覚には食べ物の情報を教えてくれる大事な働きがあり、以下のように5つの基本味に分類されています。
①甘味:エネルギーの存在
②うま味:たんぱく質の存在
③塩味:ミネラルの存在
④酸味:腐敗していないか
⑤苦み:有害ではないか
<栄養素摂取のための味覚>
食事の一番の目的は生きていくために必要なエネルギー(熱量)を摂取すること。そのため、エネルギーの存在を教えてくれる甘味は生存のために大事な感覚です。
うま味はたんぱく質の存在を知らせてくれ、体の材料となる食品を食べることを促します。
ミネラル(無機質)は塩味で感じることができ、生体の維持に欠かせません。
<危険回避のための味覚>
酸味は食べ物が腐敗していないか、苦味はヒトにとって有害な物質が含まれていないか、見た目や臭いではわからない情報を知らせてくれます。
人間の歴史は飢餓との戦いで、飽食の時代と言われる現代社会のように食べ物が身近にあふれるようになったのは最近のことです。
エネルギー価が高く、脂質や塩分が多い加工食品は、栄養素摂取のための3つの味覚を満たします。これらの食品が本土より先に身近となり、簡単に手に入るようになった沖縄。
肥満をはじめとした生活習慣病が生じやすい食環境になっている現状が見えてきます。
味を感じるために必要な唾液
味を感じるために必要なのが唾液。食べ物を噛んで唾液に溶け出した物質を「味」として舌で感じるからです。
よく噛むことは食べ物を小さくするだけでなく、唾液の分泌を促し、味を感じやすくしてくれます。そのため、うす味でもおいしさを感じることができるのです。
「噛むこと」は学習して覚えるもの。子ども時代によく噛むことを意識した食生活を送ることがその後の健康に大きく影響します。
食習慣はなかなか変えられない
沖縄県の女性歯科医師が、家族の肥満に悩み苦労した経験談を語ってくれました。
「食生活を変えなければいけないことは分かっている。でも、大人になって食習慣を変えるのは本当に難しい。」
実はこの家族、沖縄で生まれ育った歯科医師の夫。脂質たっぷりのファストフードや外食を好んで食べていたとのこと。知識はあっても、食事を変えるのは困難で、肥満解消に苦労したそう。子ども時代からの食習慣、味覚形成の大切さを実感した、という事例です。
まだマウス実験の段階ではありますが、脂質が第6の基本味である可能性や、その食行動への影響を調べる研究が進んでいます。いずれも脂質の過剰摂取には負の側面があることが示唆されています。
脂質を取り過ぎず、唾液を充分に分泌させるためによく噛む食習慣を身につけ、味覚を形成しながら研究結果を待ちたいですね。
味覚形成のためにできること
子ども時代からの味覚形成のため、大切にしたい3つのポイントです。
●うす味を心がける
食材そのもののうま味を感じましょう
●よく噛むことを意識する
おいしいと感じるまで噛んでみましょう
●口の中を清潔にする
食べ物の微妙な味の違いを感じましょう
お米やかぼちゃ、さつまいもが甘いと感じますか?野菜のうま味を感じていますか?よく噛んで、味の違いを感じてみましょう。そのためには口の中を清潔に保つことも大切です。繊細な味も楽しめる味覚を身につけて、健康に過ごせる体を手に入れてください。
▼参照コラム
●子ども達の噛む力はどのくらい?~咀嚼チェックせんべいの活用方法~
参考
●日本咀嚼学会 窪田金次郎監修、誰も気づかなかった噛む効用 咀嚼のサイエンス、日本教文社、2009
●日本咀嚼学会、咀嚼の本3ー噛むことの大切さを再認識しようー、一般財団法人 口腔保健協会 2022
●Keiko Yasumatsu, Shusuke Iwata, Mayuko Inoue, Yuzo Ninomiya,Fatty acid taste quality information via GPR120 in the anterior tongue of mice,Acta Physiol (Oxf). 2019 May;226(1):e13215. doi: 10.1111/apha.13215. Epub 2018 Nov 19.
●沖縄県保健医療部健康長寿課 健康おきなわ21第二次 ご存知ですか?沖縄県民の肥満の現状
http://www.kenko-okinawa21.jp/090-docs-category/bunya/shoku/
(2024年3月10日利用)
●山本隆、おいしさと食行動における脳内物質の役割、顎機能誌、J.Jpn.Soc.Stomatognath.18:107-114,2012
●藤原英記、油脂と味覚応答、オレオサイエンス 第19巻第3号(2019)