1. TOP
  2. コラム一覧
  3. その疲れ、貧血かも?アスリートの貧血の原因と対策
Column
スポーツと食事・栄養

その疲れ、貧血かも?アスリートの貧血の原因と対策

2023.11.30

アスリートと鉄不足

 鉄の主な働きは、全身に酸素を運搬すること。不足すると集中力の低下や、頭痛、食欲不振、筋力低下や疲労感といった症状が起こります。アスリートにとって鉄不足は、貧血の有無に関わらず、運動機能や認知機能の低下などを引き起こすため、パフォーマンスに直結します。「なんとなく調子が悪い」、「記録が伸びない」、「練習についていけない」などの症状があった場合は、貧血になっていることも。放置せず、まずは血液検査で確認しましょう。


アスリートの貧血の原因


鉄欠乏性貧血

 
 アスリートの貧血の多くは、鉄欠乏によるものです。


鉄欠乏性貧血・鉄欠乏状態の原因


①鉄の摂取不足(摂取する鉄の量が足りていない)

 鉄欠乏の原因で、最も多いと考えられているのは、食事からの摂取が少ないことです。また、鉄の吸収は腸だけではなく、胃でも行われるため、胃腸の調子が悪い場合も十分な鉄が吸収されず、鉄欠乏の状態に。


②需要増大(鉄の必要量が増える)

 汗の成分には鉄も含まれています。アスリートはトレーニング中に大量に汗をかくことが多いため、発汗で失った鉄を補うために、鉄の必要量が増えます。また、成長期のアスリートは、筋肉や血液を作るためにたくさんの鉄が必要になります。


③鉄の排出増大(身体から排出される鉄が増える)

 女性は月経による出血で、鉄の排出量が増えます。また、何らかの病気により、出血がある場合も鉄の排出量が増えるため、注意が必要です。
 鉄欠乏性貧血は、正常な状態から貧血に進むまでに段階があり、以下の順で進行します。検査値からは、表のような変化によって確認できるので、医療機関の血液検査で確認しましょう。

正常➡前潜在性鉄欠乏状態➡潜在性鉄欠乏状態➡鉄欠乏貧血

※1:ヘモグロビンとは、鉄とたんぱく質が結びついた赤色素たんぱく質のことで、赤血球に含まれる。
※2:血清鉄とは、血液中の鉄のこと。
※3:フェリチンとは、体内で鉄をためておく“貯蔵鉄”の働きを持つたんぱく質。


溶血性貧血

 
 アスリートに特徴的な状態として、「溶血」があり、陸上長距離、バレーボール、バスケットボール、剣道などの選手で多くみられます。溶血とは、運動中に足底部(足の裏)が何度も地面に打ち付けられることにより赤血球が破壊され、ヘモグロビンが赤血球の外に出てしまう状態です。アスリートに必要な十分な食事量が摂取できていれば、再び血液が作られ、溶血による貧血の症状は起こりませんが、食事量が少なく、血液を作る材料が足りない場合は貧血の原因になります。


希釈性貧血


 トレーニングの初期では、身体のすみずみまで血液を循環させようと、血液の液体成分である血漿が増えます。しかしヘモグロビンはすぐには増えないため、一時的にヘモグロビン濃度が低くなり、貧血の状態に。一時的なものであるため、貧血として問題視する必要はないと言われています。


貧血予防のための食事のポイント


エネルギー不足にしない


 エネルギー不足が貧血に繋がると聞いても、あまりイメージがわかないかもしれません。アスリートの貧血には鉄欠乏が多いと先述しましたが、エネルギー不足は、様々な障害に繋がるため、十分なエネルギー摂取は貧血予防のために非常に重要です。鉄は足りているのに貧血の症状になったという場合は、エネルギー不足が原因であることも。長距離陸上選手やバレエなどの審美系スポーツでは、食べる量が少ないことに起因するエネルギー不足が、貧血に繋がっていることもあります。主なエネルギー源となる、ごはん、パン、麺類などの炭水化物をしっかり摂り、バランスのよい食事をしっかり食べましょう。


鉄の十分な摂取

 
 食品に含まれている鉄には、ヘム鉄と非ヘム鉄があります。ヘム鉄は肉や魚などの動物性食品に、非ヘム鉄は野菜や海藻、大豆などの植物性食品に多く含まれており、大きな違いは吸収率。ヘム鉄の方が吸収率は高いですが、食べる量を考えると、非ヘム鉄からもたくさん摂取できます。動物性食品をたくさん食べると、たんぱく質や脂質、ビタミンAの摂りすぎにもなるため、あまり神経質にならず、色々な食品をバランスよく摂ることを意識しましょう。



鉄の吸収を高める工夫


 非ヘム鉄は、ビタミンCと一緒にとることで吸収率が高まります。果物や野菜などもしっかりと摂取しましょう。逆に吸収を阻害する成分として、タンニンがあります。濃い緑茶や紅茶、コーヒーなどは食事前後30分は飲むことを避けましょう。


胃腸の調子を整える


 胃腸の調子が悪いと、どんなに食事をしっかり摂っても吸収してくれません。油の多い食事や動物性食品の摂りすぎなど、胃腸に負担になる食品は食べすぎないように注意し、よく噛んで、消化吸収を助けてあげましょう。



食事以外のポイント


 貧血予防だけに限りませんが、身体のリカバリーのためには睡眠も大切です。最低7時間を目安に、十分な睡眠をとりましょう。また、すでに貧血になっている場合や、食事による改善を実践しても改善しない場合、運動量を減らす検討も必要です。指導者がいる場合は、しっかり相談して調整していきましょう。

貧血予防のポイントとしていくつかお伝えしましたが、食事については、まずは難しく考えすぎず、バランスよくしっかり食べることを心掛けてくださいね。


参考

●厚生労働省 e-ヘルスネット 鉄
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-022.html
(2023年11月30日利用)
●厚生労働省 e-ヘルスネット Hb/血色素量
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/keywords/hemoglobin
(2023年11月30日利用)
●鈴木志保子,「理論と実践 スポーツ栄養学」,日本文芸社,2018
●田口素子編,「アスリートの栄養アセスメント」,第一出版(株),2017

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/keywords/hemoglobin